この言葉は意識しなかった(カインコンプレックス)

前述した「筒井康隆スピーキング」で家族の関係について述べている。

(P.139) 筒井:いわゆるカイン・コンプレックスですね。兄というのは社会的にそもそも立場が上だから、出来のいい弟を嫉妬するわけで、それは不思議ではありません。ただ、ぼくは体験的に、社会的に立場の低い弟が、兄を嫉妬し憎悪し、馬鹿にしようとする複合観念が強烈に感じられるし、それもやっぱりカイン・コンプレックスなんですね。
嫉妬されたり憎まれたりされるということは、非常にいやなものですね。兄貴がそうされる場合は、なおさらです。もし弟であった場合は、そもそも理由が何もなくても、兄貴からいじめられて当たり前というところがありますからね(笑)。

「愚兄賢弟」という言葉があるように、兄が自分より優れた弟を妬む話はよく聞くが、その逆はあまり意識されない。ただし、兄が弟よりも社会的に上の立場で、なおかつその才能の差に歴然としたものがある場合、弟はそれを強烈に意識するし、両親が弟を不憫だと思い、憐憫の情を差し伸べると、弟は兄に対して「妬みの感情を持ち」「公然と馬鹿にした態度を取っていい」という承認を与えることになる。
本当は、兄弟を差別して子育てをすることはあってはいけないが、子育てを行うときに兄の方は手がかかった、弟の方は二番目で慣れも出てきたから手もかからないという経験が、両親において弟のほうを可愛がりがちになるというのは古今東西共通しているから、根深いものである。そういうものがあると意識しなければ、なんで弟はこんなにつっかかってくるのだという戸惑いがあるわけで、筒井康隆氏の言っていることは本質的に正しい。
ではそれに対する解決方法があるかというと、見事なまでにない。弟の社会的地位を抹殺するまで徹底して(真綿で首を絞めるように)追い込んでもいいが、そこまでやると「大人気ない」と糾弾される原因となる。そもそも、両親がそういう教育を形而下に(弟に)施しているので、何か諭そうとしても全く効き目はない。つまるところは「放置プレー」(要はF/OあるいはC/O)しかなく、そのまま喉に小骨の刺さったような緊張した関係が死ぬまで続くのである。