想像以上に「狂気の経営」(堤清二)

堤清二とセゾングループ (講談社文庫)

堤清二とセゾングループ (講談社文庫)

刊行当時まだセゾングループの解体は進んでいなかったが*1、本質的な部分はここで語りつくされていると思うし、セゾングループの歴史を知る上では必読書と言える。堤清二と増田通二との関係が微妙だったとは本書を読むまでは知らなかったのだが、独裁政権が続くとやはり組織はぶったるむのだな。それは医療機器部の架空取引だとか、イトマン事件をめぐる絵画取引に現れている*2

ただし、刊行当時は故人となっていた森田重郎の存在について断片的にしか記述が見られないのが惜しまれる。西武鉄道の中でも継子的存在であった西武化学工業を多角化戦略で成長させたのだから。興味深いのは、堤清二の蹉跌は森田重郎とほとんど同じ道を辿っている点である。過大な不動産投資によって経営を追われたところだけ見ればそうなのだが、多角化志向も決して収益力向上には繋がらなかったことを看過してはならない。西武化学工業は売上高こそ急成長を遂げたが、営業利益率はけっして高水準ではなかった。それは西武百貨店も同様。それをわかったうえで本書を読み込む必要がある。単に堤清二の「狂気の経営」に帰せばいいという問題ではないのだ。

*1:それは銀行間の責任の押し付け合いだったり、負債が大きすぎて潰せなかったり

*2:増田通二がパルコを去ったのも発端としては総会屋への利益供与事件があり、芽は撒かれていたのかもしれない