「読者」と「著者」の時空を越えた邂逅。

「存在困難」で個人的に好きな文章は、文章の持つ力を端的に現したくだりである。荘子の「薪火伝う」に通じる思想性が、またなんとも。

「さて、あなたはポケットからこの本を取り出す。読む。そして、あなたがもうぼくを書いたもの以外何ものにも気を取られなくなるまでになると、あなたは、内部に少しずつぼくが宿り、あなたがぼくを生き返らせているのを感じ取るようになるだろう。あるいは、突然ぼくにそっくりの動作や目つきをしてしまうかも知れない。当然のことだが、ぼくは、ぼくの肉体も骨も何もかもなくなり、ぼくの血も、ぼくのインクと結びついていない時代の若者たちに話しかけている。」
(「存在困難」責任について)