「身元保証ニ関スル法律」を読み解く。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S08/S08HO042.html
故あって「保証」に関する法律を調べていて、こんなものを見つけた。

昭和八年法律第四十二号(身元保証ニ関スル法律)
(昭和八年四月一日法律第四十二号)


第一条  引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ三年間其ノ効力ヲ有ス但シ商工業見習者ノ身元保証契約ニ付テハ之ヲ五年トス


第二条  身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ期間ハ之ヲ五年ニ短縮ス
ニ  身元保証契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但シ其ノ期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ


第三条  使用者ハ左ノ場合ニ於テハ遅滞ナク身元保証人ニ通知スベシ
一  被用者ニ業務上不適任又ハ不誠実ナル事跡アリテ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタルトキ
二  被用者ノ任務又ハ任地ヲ変更シ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ加重シ又ハ其ノ監督ヲ困難ナラシムルトキ


第四条  身元保証人前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ将来ニ向テ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得身元保証人自ラ前条第一号及第二号ノ事実アリタルコトヲ知リタルトキ亦同ジ


第五条  裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス


第六条  本法ノ規定ニ反スル特約ニシテ身元保証人ニ不利益ナルモノハ総テ之ヲ無効トス

民法第454条では連帯保証人の権利(抗弁権)*1を制限しているが、本法ではその連帯保証人の抗弁権に対して期限の定めを設けている。多くの会社で「試用期間」*2が定められている最大の理由は、まさにここにある(第一条の「但シ商工業見習者ノ身元保証契約ニ付テハ之ヲ五年トス 」)。*3 身元保証書の更新をしない限りは、保証人の責務は期限到来(5年経過)後消失する。それ以前に、第五条で裁判所は身元保証人の損害賠償責任・賠償金額を「其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌」すると定めているので、一般的な「連帯保証債務」を負うことはない。
入社時にこれを提出してから退職するまでの間に保証人が死亡したり行方不明になったりする場合はどうするのだろうか、「連帯保証」としていれば、保証人の債務をも本人が弁済することもありえるので*4、非常に腑に落ちなかったのだが、その単純な疑問が解決した。

*1:民法第452条〜第453条。「本人から先に貰えや」と抗弁する権利。連帯保証人はその権利がないために、本人が一回でも約定通りの支払いを行わないと、弁済義務を否応無しに負う。

*2:「試用期間なら何時でも解雇できる」わけではない。本質的には、身元保証書の期間延長効果。

*3:第二条第2項にあるとおり、身元保証書の更新要求を制限してはいない。

*4:会社に提出した身元保証書が第三者にどうやって流出するのかという問題があるが。